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セオリー。

普段私服で出社してるため、あんまりスーツとか持っていない。でももうすぐ必要になりそうなので、休みを利用して買いに行くことにした。とりあえず駅近くの店に入ったはいいけれど、どういうのがイイのかすらよく判らない。時間と酸素を無駄にしないため、入店5秒で若い店員さんに声を掛ける。「披露宴とかに着ていくスーツをください。」

少々お待ちくださいと言われて少し待つと、奥からベテラン臭を漂わすオジさんが来てくれた。もう一度用件を伝えると、『くろ…スー…でよろ…ぃ…か』と低音量かつ抑揚の無い声で尋ねられた。驚くほど聞こえない。表情を察したのかもう一度言ってくれた。『真っ黒いスーツでよろしいですか。』

2回目だから聞こえたというくらいで、声の音量が変わっているわけでもない。なおかつ仏頂面であり、人の目も見てくれない。まとめると覇気が無い。大丈夫かな?と内心思いつつ、「礼服じゃない方がいいんですが。」とだけ伝えるたら、『ではこちらへ。』とボソッと呟き、店の一角へと歩いていく。

立ち止まって『ここからここまでがそうです。』とボソっと呟き、『サイズ測ります。』とボソッと呟きながらウエストと腕の長さを測って、『着た感覚を見るためにサイズ合わせてみましょうか』とボソっと呟く。覇気は無いが恐ろしくサクサクと進んでいくぜ。

その後良さそうなのを選んだら、これまた静かに試着室へと誘っていく。あまりの無言感に思わず「結婚式なんですが、どんなシャツがいいんでしょうか?」と回り込んで覗くように訊いてみたら、『白が無難ですね。』と全く目を見ずに答えてくれた。オーケイ、筋金入りだ。

他にもシャツとかベルトとかタイとか買ったんだけど、訊いたらボソボソと説明してくれるので、入店から20分で全行程が終了するというスピードだった。事務的なコミュニケーション以外全く喋らず、声は小さいままで、最後まで目も合わせてくれないという、接客業としてあるまじき応対。店を出たあとオジさんの未来は大丈夫だろうかと心配してしまった。それくらい理想の応対だった。気楽すぎる。